四大王と四大天使
仏教の四大王も、西方(ユダヤ・キリスト・イスラーム教)の四大天使も、いずれも、地上世界の東西南北の方位に配されている点で、全く同じ立ち位置にあると言える。
とはいえ、両者の描写の方向性には、それぞれ異なりがあり、その擦り合わせをしていくと、興味深い事実を発見できたので、ここで述べて行きたい。
仏教の四大王の場合
各大王の名前が分っているものの、各大王の性格・特徴というものがはっきりしない。北の毘沙門天が筆頭となっているという他、これといった性質が不明である。むしろ、各大王自身ではなく、各方位と眷属となる畜生系の神獣の方が、その性質を特徴づけている。
東 | 西 | 南 | 北 | |
---|---|---|---|---|
大王 | 持国 | 広目 | 増長 | 毘沙門 |
神獣 | ガンダルヴァ | ナーガ | クンバンダ | ヤッカ |
一方、四大元素はパーリ仏教(古代インド世界)でも西方世界と共通する概念でありながら、四大王や方位との関連付けは定かではない。
西方の四大天使の場合
四大天使の場合は、四大元素との関連付けがかなり明確である。
東 | 西 | 南 | 北 | |
---|---|---|---|---|
天使 | ラファエル | ガブリエル | ミカエル | ウリエル |
元素 | 風 | 水 | 火 | 地 |
天使の場合、四大元素と天使の間の関連付けは分りやすいのだが、逆に、元素と方位(または天使と方位)の関連付けが、多分に疑問が残るのである。
どう考えても、火と水、風と地が対置する元素のはずであり、それを方位に反映するのであれば、それらが対置するような方位に配するべきだと思うのである。つまり、火を南のまま水を北に配するか、水を西のまま火を東に配するか、のどちらかである。
結論から述べると、後者が正解になると思う。
東 | 西 | 南 | 北 | |
---|---|---|---|---|
天使 | ミカエル | ガブリエル | ラファエル | ウリエル |
元素 | 火 | 水 | 風 | 地 |
理由としては、西が水と関連する方位とすることは、東洋(仏教・ヒンドゥ教・中国)世界とも共通する発想だからである。仏教・ヒンドゥ教ではナーガ(龍神=水神)や弁財天と関連付けられ、中国では西王母と関連付けられ、水の元素を司るガブリエルとの相性は非常に良い。
つまり、西=水を固定して、それに対置するように、火(ミカエル)を東に修正することが、正解となる。
西方の四大天使(四大元素)の方位の配置が間違った理由
元素自体の性質からすれば、火と水、風と地が対置することが、どう考えても適切であるにも関わらず、西欧の伝統的な神秘家が間違った配置をしてしまった理由はなぜだろうか?
これは、西欧の地理的な事情が原因と考えられる。地理的な気候の問題である。西欧では、季節的に、夏季(冬季も)には乾燥し、春季(秋季も)には湿潤であるため、南(夏)=火(熱・乾)、東(春)=風(熱・湿)と割り当ててしまったのである。考えてみればわかるが、これは西欧ローカルには普遍的に当てはまるため、疑問を抱く余地がなく、誰にも気付かれることがなく見過ごされたままであったのだが、アジア・モンスーン地域では、夏が湿であり、春が乾である。どちらの地域の状態が正解と言いたいのではない。このように、気候という、地上的な理由で、四大元素という普遍的なものを配置を決定してしまってはいけないということである。
再度言うが、地上世界の季節的なコンディションに引きずられず、火と水の対置からすれば、それが東と西に置かれることは、究めて理想的であるのがわかる。ミカエル(神の武力)とガブリエル(神の慈悲)という、非常に対照的な大天使が、阿吽の仁王像や狛犬、ソロモン王の神殿のボアズとヤキンの 2 柱のように、非常に美しい対称形となることがわかる。
四大王と四大天使を対照する
以上の検討を踏まえて、四大王と四大天使を対照すると、さらに興味深い事実が発見できる。
東 | 西 | 南 | 北 | |
---|---|---|---|---|
大王 | 持国 | 広目 | 増長 | 毘沙門 |
神獣 | ガンダルヴァ | ナーガ | クンバンダ | ヤッカ |
天使 | ミカエル | ガブリエル | ラファエル | ウリエル |
元素 | 火 (熱・乾) | 水 (冷・湿) | 風 (熱・湿) | 地 (冷・乾) |
つまり、仏教の四大王(および神獣)の場合は、四大元素との関係が不明瞭だったのが、このような形で明らかになったのである。
西のナーガが水と関連していることは元からはっきりしていたわけだが、ガンダルヴァやヤッカ、クンバンダとの四大元素的な関連は不明であった。ガンダルヴァは鳥に近い存在であるから風と思いたくもなるが、朝日や上昇する天界に最も近いエネルギーとすると、火とするのも悪くない。ヤッカは、アンデッド(ヴァンパイアやゾンビ・レイス等の死霊系)に一番近い存在なので、地(最も物質的な低いエネルギー)だとしても違和感はない。(クンバンダは神獣として元々存在感が薄く性質がほとんどわかっていないので、比較以前の問題であり、割愛する)
補足:中国の四神獣や五行説について
中国の四神獣の考え方と比較すると、特に南の朱雀は火と対応しており、従来説の四大天使の方位配置と合致するように思えるかもしれない。
しかし、そのような短絡思考は浅い反駁である。中国の場合、五行説なので、四大元素とそのまま対照することは不可能である。南の朱雀の火というのは、あくまでも五行説の火なので、四大元素の火とは全く違う。それがわかっていない場合の反駁ということになる。
だから、北には水の玄武が配されているわけだし、東には青龍(木)だったり、西には白虎(金)だったりと(さらには中央に黄帝(土)だったり)、全体からして丸きりシステムが異っているので、その一部の要素のみを抜き出して反駁するのは、短絡思考に過ぎる。
補足なので詳細は省くが、対応づけるとしたら、以下のようになる:
東 | 西 | 南 | 北 | |
---|---|---|---|---|
大王 | 持国 | 広目 | 増長 | 毘沙門 |
神獣 | ガンダルヴァ | ナーガ | クンバンダ | ヤッカ |
天使 | ミカエル | ガブリエル | ラファエル | ウリエル |
元素 | 火 (熱・乾) | 水 (冷・湿) | 風 (熱・湿) | 地 (冷・乾) |
五行 | 木 | 金 | 火 | 水 |
四神 | 青龍 | 白虎 | 朱雀 | 玄武 |
ちなみに、表から漏れている、土(黄帝)=中央については、四大元素のシステムに対応づける場合は、「空」である。
つまり、四大元素説では上昇するエネルギーを火(熱・乾)とし下降するエネルギーを水(冷・湿)とするのだが、五行説では上昇を木(植物の生長)下降を金(鉱物の結晶化や金具による植物の収穫)としている。エネルギーが上昇した結果・下降した結果を、四大元素説では風(動き回る気体)と地(冷え固まる固体)で対比し、五行説では火(単純に夏季の高温状態の喩え)と水(単純に冬季の低温状態の喩え)として南北に配置しているのである。
このように、同じ火や水という言葉を使っていても、四大元素説と五行説では、その言葉を割り当てる由来となる性質が異なっている。単純に言語的に両者を(火=火、水=水、地=土といった形で)関連付けするような左脳的短絡思考で知ったかぶりをするいい加減な論者の説に呑まれてはいけない。
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