四大王天
結局、四大王天と三十三天というのは、神としての存在の境地のレベルは異っているが故に、区別はされているものの、空間的には共通しているように思われる。いわゆる〝地居天〟として一括りにすることができる。
つまり、地居天は、そこに棲む〝生き物〟の違いには注目しないで、空間的に考えれば、同じ一つの場を舞台として棲み分けている形となっている。それは、スメル山と呼ばれる一つの霊的な富士山のような形をした巨大な山体である。頂上には三十三天の住まう領域があり、山体の東斜面がガンダルヴァの領域、北斜面がヤッカの領域、西斜面がナーガの領域、南斜面がクンバンダの領域となっている。ガンダルヴァ(神鳥)・ナーガ(神龍)・クンバンダ(半人半獣または半魚人)は言ってみれば神獣の類であり、ヤッカは獣というより人型だがいわゆる鬼神であって、いずれも人外の魔物である。つまり場の観点からすれば、三十三天も四大王天も、同じ一つのスメル山という場を、山頂セクターを区別して三十三天と呼び、東西南北のセクターをそれぞれ四大王天の各領域として認識している、セクター分けに過ぎないのである。
この霊的なスメル山は、おそらく、裾野の方で人間界の存在する物質的な地球と重なり合っており、地下にまで続いて行っている。そもそも、このスメル山の構造は、地球の北半球の物理的な構造に由来するものだと、僕は考えている。つまり、三十三天のある、スメル山頂というものは、物理的な北極点に由来するものだが、あくでも霊的な相対的な位置関係を意味するものなので、実際に地球上の北極点に行ったからといって、三十三天そのものに辿り着けるわけではない。
スメル山の裾野が物理的な地球の地下にやや入った地中に、ナーガの王国がある。一方、物理的な地球のやや上、樹木の高さのあたりに、ガンダルヴァたちが棲み、深い森の奥や転輪山を囲む果てしない外洋の大海原の中にクンバンダが棲む。スメル山の北の裏側の影の領域にヤッカが棲む。
四大王とは?
では、それら東西南北の各方位の神獣たちを支配する、四大王とは、何なのか? 以下は僕の〝未だかつて聞いたことのない〟勝手な思い付きなので、何の権威もない話だが、四大王たちが、ガンダルヴァ等の畜生系の神獣だという話は聞いたことがない。僕は、「彼ら四大王自身は、三十三天の神である」と思うのである。そしてむしろ、三十三天の王であるサッカに次ぐ、将軍が、この四大王たちなのではないかと。
そもそも三十三という数字の意味が明らかではない。ここに僕の仮説として、「33 = 1 + 4 × (1 + 7)」というものを立ててみた。最初の 1 はサッカである。「4 ×」というのは、東西南北のそれぞれ各方面を。「(1 + 7)」の 1 が各方面の将軍である四大王たち。7 はさらにその配下の部将の神である。7 × 4 = 28 であり、月の満ち欠けによる暦の新月 → 上弦 → 満月 → 下弦 → …… というサイクルに割り当てるのに都合の良い数字である。
とはいえ、神獣ではないれっきとした神として四大王天という境地があることも否定はしない。つまり、スメル山頂上の三十三天の領域に住むことができず、東西南北の各斜面の領域に住んでいる神々である。例えば、ビンビサーラ王は死後、ヴェッサバナ(毘沙門天)の眷属神として転生したとされる。
ナーガとは?
恐竜(の化石)に由来する。もちろん、スメル山同様、霊的な存在であり、実際の恐竜そのものであるという話ではない。以下は僕の思い付き説であり、同じことを言っている人も欧米あたりにはいそうだが、竜というのは、昔の人々が、恐竜の骨(化石)を発見して、大昔のものだとは思わず、たまたま最近死体になったものを発見したものだと思い、生きているものを妄想したのがルーツになっているのだと思う。
基本的には、地下や水中に関連した神獣である(地脈や水神)。彼らは、狩猟採集時代の古い時代には、れっきとした神々として主神の座にあった。サッカ(雷神)たち天空神が主権を握るようになったのは、牧畜農耕文明の開始によってである。
狩猟採集時代は基本的には、水辺を中心に現生人類は世界に広まっていったのである。貝などの海の幸こそ、ナーガ(水神)の与える恵みであった。(地下と、水中に、それぞれ関係する具体的な理由の説明は、今ここでは割愛する)
ブラヴァツキーの語る神智学的におけるアトランティス文明のレプティリアン(爬虫類型人類)というのも、ナーガに由来する妄想的神話の一つである。
ヤッカとは?
ネアンデルタール人に由来する。もちろん、スメル山やナーガ同様、霊的な存在であり、実際のネアンデルタール人そのものであるという話ではない。以下も僕の思い付き説だが、ネアンデルタール人というのは、西アジア〜ヨーロッパでは、巨人族(タイタンやネフィリム、ユミル)という形で神話化されている。彼らヤッカ(巨人族)もまた、ナーガと双璧をなす、狩猟採集時代の古い時代の一大勢力であった神々である。
狩猟採集時代は基本的には、水辺を中心に現生人類は世界に広まっていったのであるが、森や山地を中心とした内陸部には、先に、ネアンデルタール人が住んでいた。当時、森の巨人(ネアンデルタール人)たちは、山の神として崇められ、恐れられていたのだろう。
余談:アスラとは?
上述のように、古い神々であるナーガ族やヤッカ(巨人)族は、牧畜農耕文明の開始によって、サッカたち天空神に主権の座を追い落とされたという経緯があるので、彼ら両者の勢力のうち、今でもサッカの主権を認めずサッカに対して反抗し続けている、一部のナーガ・ヤッカが、実はアスラではないのかと、僕は思うのである。メソポタミアの神話やギリシャ神話や北欧神話でも、リバイアサン(竜)やタイタン族など、竜および巨人が主神に反乱を起こす。
ちなみに、四大王の配下にあるナーガたちの棲むナーガ界は、地下のアスラたちの棲むアスラ界(餓鬼界の最上層)に蓋をするような場所にあり、通常はナーガたちがアスラを地下に押さえ込んで、地上に出られないようにしている。基本的に個体の力としては龍の方がアスラ(ヤッカ)よりも圧倒的に強く、アスラの軍勢を集めて大量の犠牲を覚悟の上でナーガ界を突破しようとしなければ、地上に出てくることはできない。
ガンダルヴァとは?
鳥に由来する。人々が目を覚ます夜明けの東から太陽が上る時に、鳥が鳴き始める。伎楽神たるガンダルヴァの所以である。
西方世界では、天使に相当する。
クンバンダとは?
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半人半獣のパーン(またはフォーンやサテュロスとも呼ばれる)の類、またはアシカ・オットセイ等の海獣に由来する半魚人(人魚)。西方世界(ギリシャ)では半人半獣のパーンは海に入って人魚となって逃走したという伝承もある。パーリ仏教では一番影が薄い。「瓶のような体つきをしている」という説明しかなく、南の方位が大洋であることと考え併わせると、人魚のようなものと考えるくらいしか思い付かない。また、瓶というのは、巨大な男性器を表わしているともされるが、これも半人半獣のパンに一致する。