女夜叉
旧 2ch のスレ「死ぬ程洒落にならない怖い話をあつめてみない?」より、今回は「俺の妹は霊感が強い。──喪服の貴婦人篇──」を取り上げる。ちなみに今回の題材である「女夜叉」とは直接の関係はないが、イントロダクションに当たる「肝試し篇」を読めば話者の妹についてと、彼女が除霊に使っている霊刀についてのエピソードが語られている。
- 兄(話者)は多少の霊感はあるが、基本的に無力
- 妹は霊能力者で見えるだけでなく、除霊する力もある
- 近所から預っているいわくつきの○○包丁と呼ばれる霊刀があり、妹はそれを武器として使って除霊することもある
- 兄は町で喪服姿のブロンドの白人女性(黒い貴婦人)と親しくなる
- 兄は下心から黒い貴婦人に優しくし、雨の中、(自宅と同じ方角にある)外人墓地まで傘を差して同行する
- 墓参を済ませて今もなお墓地に留まる黒い貴婦人に背を向けて去ろうとする兄に、妹から携帯に電話がかかってくる
- 妹は「振り向かずに家まで走って帰れ」と言う
- 途端に、背後に黒い貴婦人の迫る気配(服の音や香水の臭い)
- 兄は黒い貴婦人が人外のヤバいものであることを悟り、必死になって走る
- 兄の耳元に黒い貴婦人のささやきが聞こえ、背中に爪を立てて食い込み、後ろから羽交い締めで抱きすくめられ、捕まる
- その刹那、駆け付けた妹が、例の霊刀を布に包んだ状態で黒い貴婦人の手を兄の肩ごと殴りつける
- 黒い貴婦人は逃げてゆく
- 妹は兄を叱り「なぜあんな血だらけの女に魅かれたりするのか」と言う
- 兄には妹の言ったことは不可解だったが、体のあちこちに血の手形が付いており、はがれた赤い爪が一枚刺さっていた。
- 気を失った兄は後に部屋で目を覚ますが、夢の中で黒い貴婦人は顔から血を流した
- 妹には神社の娘の友達がいて、二人で一緒に兄の部屋に札を貼ったりして防護策を講じていた
- しかし、それ以来、夏になると黒い貴婦人に怯える状況が続いている
話者の霊的素養として、通常の死者の幽霊と、悪霊(夜叉)の区別がわかっていないようであり、この「黒い貴婦人」を幽霊の一種として考えているような節がある。幽霊だが、普通よりも、恨みが強いという感じの。
しかし、パーリ仏教的に考えてみれば、これは通常の幽霊ではなくて、夜叉(ヤッカ)だろう。女の夜叉だから詳しく言えば女夜叉(ヤッキニー)である。つまり、交通事故で死んだりして事故現場で地縛霊としてその瞬間のまま留まっている幽霊(餓鬼の一種)ではなく、積極的な意思を持って活動している二足歩行型の畜生道系神霊の一種である。畜生道系生命のうち、「鬼畜」と言った場合の、「鬼」の方と考えてもよい。
「血まみれ」であるというのが、話者の感覚として何らかの血まみれ状態で死んだ幽霊のように考えている節があるが、この「血まみれ」状態は、当人の流す血ではなく、女夜叉が食い殺した犠牲者の男の返り血によるものと考えた方がいいと思う。
西洋のヴァンパイアも、実は、夜叉の一種だが、まさしくこの女夜叉はヴァンパイアであるとすれば、よりピッタリくるのではないか。もちろん、「血を吸って、それが感染して、吸われた側もヴァンパイアになる」「十字架やニンニクや日光に弱い」というようなマンガ脳的な設定までも含めてヴァンパイアそのものだと言うつもりはない。
この女夜叉のように、男を性的に幻惑させて虜にする力というのも、明らかに幽霊ではないことがわかる。そしてこういう力がヴァンパイアの「血を吸って手下にする」という設定のルーツであるということがわかるだろう。
また、妹は、霊刀で通常の幽霊程度はたやすく除霊していたようだが、その妹をもってしても、この女夜叉は除霊できていない。単に遠ざけて神社の御札で結界を張って防護している程度に留まっている。このように明らかに、幽霊(餓鬼霊)と悪霊(夜叉)では、素性が違っていることがわかる。
龍との違い
同じ畜生道系神霊でも、四足獣系の龍(ナーガ)とは多少の性質の違いがある。いずれも畜生系ではあるから、人間と比べて理性と感情のバランス配分が大きく異なっていて(サイコパス性)、恋愛感情も、人間に比べて苛烈なまでに激情的である。
例えば、霊能者の吉本芸人シークエンスはやともは、稲荷神社の危険性について、動物霊ゆえのペット的な嫉妬深さについて述べている。
人間のそれと比して、独占欲が異常という点では、龍も夜叉も畜生系なので、理性とのバランスが狂っているのは同じなのだが、龍の場合は独占欲から取り憑く相手の周囲の人間に嫉妬して排除しようとするのに対し、夜叉の場合は独占欲を取り憑く相手を食い殺して他の誰も手が出せない自分だけのものにしてしまおうとする形で全うしようとするのである。
どちらの祟られ方の方がより辛いかは、状況と人によるだろう。
また、中国や日本のような東洋は、元々龍系の影響が濃い民族・文化性なので、2ch オカルト系の実例でも、龍的なエピソードの方が圧倒的に多い気がする。一方、それに比して夜叉的なエピソードは少ないと思う。
同じ畜生道系でも、夜叉系の影響が濃いのは、西欧である。なので、今回取り上げた話の話者は、女夜叉をブロンドの白人美女として認識していたが、実際に白人美女の幽霊というわけではないと思う。むしろ、夜叉であるという性質が、話者の観念においては、ブロンドの白人美女という彼にとっての相応しい外見を纏って経験・知覚されたのだろうと思う。
また他にも、シークエンスはやともは、沖縄のユタと青森のイタコの違いについて:
「ユタは自然界全体を俯瞰している、イタコは個々人の人格の家系的な繋がりに強い」というような感想を述べている。
日本の中で、沖縄は中国に近い。そのため、風水的な色彩が強くなる。龍的な性質が強くなると言い換えてもよい。
一方、日本の中で、青森や秋田(ナマハゲ)のあたりはロシアに近く、多少血も混ざっていると言われる。そのため、白人の我が強めで夜叉的な性質が強くなると言い換えてもよい。もちろん、あくまでも日本の中では、の相対的な話で、結局、日本全体では、東北地方も含めてやはり龍的な性質が絶対的には強いと言える。単に、日本では少数派の夜叉系の例は、どちらかというと東北の事例の方が多めに見つかりやすいかも、という程度の話である。
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