山神に貸した右手

動画 1 話目:

185:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/10/27(木) 22:02:41 ID:Wu2V5BPx0

知り合いの話。

彼の奥さんが寝ていると、深夜誰かに起こされたという。
「もし」という呼び声で目を覚まされたのだが、枕元には誰の姿もない。
寝惚け眼なのであまり奇怪にも思わず、布団の上に正座して見えない客人に
応対していると、どうやら次のようなことが判明した。

「突然仕事が舞い込んで来たのだが、今のままではとても手が足りない。
 どうか近所のよしみで、貴女の手を貸しては頂けないだろうか?」

近所付き合いを大事に考えている奥さんは「いいですよ」と即答していた。
近所って何処の家? 仕事とは何? 自分は何をすればいいの?
なぜかそういう類いの考えが、まったく頭に浮かばなかったという。
すると「ありがとう」という応えがあり、そこで初めて頭がシャンとしたが、
声の気配は掻き消すように消えてしまう。
変な夢を見たわね、そう思い再び就寝した。

翌朝目覚めてみると、何とも困ったことになってしまっていた。
右手の感覚が失くなっているのだ。肩から下が、動かすことは出来るのだが、
神経が死んだかのように何の触覚も伝えてこない。
突付かれてもそれがわからない程の症状だったという。

186:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/10/27(木) 22:04:28 ID:Wu2V5BPx0

(続き)
大慌てで病院にかかったが、精密検査の結果はどこにも異常がないと出た。
困り果てて、もうこうなったら大きな街の病院に行くしかないかと夫婦で話し
始めた頃。丁度、変な夢を見て一週間目の夜だった。
やはり深夜過ぎに「助かったよ。迷惑をかけたね」という声を聞いた。
果たしてその翌朝、右手はすっかり元通りに復活したという。

近所のお婆さんが言うには、そりゃ山の神様だろうと。
なんでもこの辺りの山神は手足が一本ずつしかないそうで、手が足りない折は
里まで人手を借りに下りて来る慣習なのだそうだ。
「神様って一体、山の中で何の仕事をしているのかしらね?」
奥さんはそう言って小首を傾げていた。

187:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2005/10/27(木) 22:05:21 ID:Wu2V5BPx0

余談。

神様に文字通り貸しを作った訳だ。何か良いことあったんじゃないか?
そうからかうと旦那は少し口ごもり、ぼそぼそと次のように口に出した。

「・・・いや、何と言っていいのかもう・・・凄いんだ・・・」

・・・どうやらあの日以来、奥さん本人は自覚してはいないが、旦那さんにしか
わからない超絶テクニックを授かったものらしい。
詳細はちょっと書けないが、現在夫婦仲は非常に良くなっているという。

∧∧山にまつわる怖い・不思議な話Part23∧∧

幽霊に与えた供物の味は失われ(cf. 「供物の味は失われる」)、邪神に奪われた腕は骨折が治っても動かなくなった(cf. 「邪神に奪われた右腕」)。

今回のエピソードでは、一時的ながら、右手を山神に貸し与えた話である。貸出中に、貸主の女性は、右手の感覚を失い、動かせなくなった。医学的には何の異常もないのだが、この例でもやはり、感覚(右手を持っていることの霊的な価値)が失われるのである。

そして余談がさらに面白い。右手を返却後、件の女性は、性的テクニックが神業モノとなったという。おそらく、それは右手を使った性的行為によるものだと思われる。一時的にせよ、神がその右手の霊体を使用したことによって、右手の霊的な感覚が活性化したのだろう。つまり、彼女の右手は、直接相手の霊体に作用できるわけである。感覚的な快感を直接相手に与えること(cf. ジャータカ 536 話のパンチャパーパーのエピソード)だけでなく、おそらく、彼女の右手で肩などを叩けば、除霊にも有効ではないかと思われる。

そのような右手の霊的活性化状態が、恒久的なのか、一時的なのかは定かではないが。

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