疑わしき移動平均の有効性
日本のテクニカル分析では最もメジャーな概念が移動平均線だと思うが、理系の僕は昔から一定の不信感を抱いている。
ところで、先週末の木曜日(2025-11-20)、事前に警戒され注目を集めていた nVidia の好決算を受けた日本株市場の反騰があり、たまたま僕がウォッチしている 3 名の株式投資系 YouTuber 全員が、同日の N225(日経平均)のチャートについてテクニカルなコメントをしていた。
まず、草食系投資家ろっく氏の動画が、この動画においては N225 のチャートのテクニカル分析そのものをテーマとしていただけあって一番詳細かつ丁寧な解説となっている。
- 5 万円の節目がサポートからレジスタンスに転換
- 移動平均線(おそらく 25 日だろう)もサポートからレジスタンスに転換
対して、米国キャリアの投資 ch げんたろう氏註 1 註 2は、「5 万円の節目を世界中の投資家が意識する(からサポート・レジスタンスになりやすい)」と述べるに留まり、移動平均については触れていない。(2:50~)
最後にひげづら株チャンネルのひげづら氏。「25 日移動平均で抵抗を受けていて心配」と述べている。(11:02~)
彼ら 3 名、特にろっく氏とひげづら氏の動画を見ていて、自分の見ているチャートとの印象の違いに気付いた。
彼らの(25 日の)移動平均線は今や支持から抵抗へと転換しつつあることを示しているわけだが……
一方の僕のチャートでは、移動平均がむしろ、最近の下落での反発する底を形成した支持を見事に表現していたのである!
何が違うのかというと、日本標準の 25 日移動平均に対して、中期線として僕が愛用しているのは 20 日移動平均であるという点が決定的な違いだろう。註 3
例えばテスタ氏も「25 日移動平均は、意識する人が多いから、結構有効」という趣旨の発言をしているのを、切り抜き動画などを含めて頻見して知っているが註 4、理系の僕としては、「それはそれで一つの理屈だけど、20 日の方がもっと合理的である」と思っている。なぜなら、通常、相場は 1 週間 5 日であり、1 ヵ月は 4 週間とすれば 20 日ということになるわけで、25 日という 5 週間を意味する期間を敢えて採用するのは不自然である。昔、相場が 1 週間 6 日であった頃は、1 ヵ月で大体計 25 日相場があったのかもしれないが「これが社会的慣習だから」という人為的効果面だけで引きずり続けるのは、極めて文系的な行動原理である。日本よりも理系的なアメリカでは、20 日移動平均が標準のようだし(ex. リンダ・ラシュキ)、今の日本の株式市場は外国人投資家の影響力の方が強いのは誰だって知っている。だから、「意識する人が多いから、有効」という話ならば、「(外国人投資家が使う)20 日移動平均の方が、最も意識する人が多いから、一番有効」という話にもなる。理系的にも文系的にも、20 日移動平均の方に分がある。──と僕は思っていたが、今回の下落の底にその仮説の証拠が示されていたことになる。
とはいえ、そんな程度の所詮は恣意的な有効性だから、僕は移動平均自体をあまり重視していない。基本的にカーブフィッティングの最たるものが、移動平均だと思っている。何ひとつこれから先の予測には役に立たず、単にこれまで続いている既存のトレンドを確認するためのものでしかない、と思っている。註 5
例えばひげづら氏は「外国人投資家が現物を買う一方、日本の個人投資家が信用で売る状況は(買い方にとっては)好ましい」という旨の話を述べている、このように、日本の個人投資家の行動が、外国人投資家と反対になる原因は、「大口の機関投資家のスマートマネーの形成するトレンドの最後尾で行動する大衆投資家は負け組になる」という一般論以外に、「外国人投資家は 20 日移動平均を見て売買しており、日本の個人投資家は 25 日移動平均を見て売買している」のが原因ではないか、というのが僕独自の仮説である。つまり、現状、20 日移動平均を見ている外国人投資家はまだ支持で買い支えようとする状況にあるので、売りにドテンする状況ではない。にもかかわらず、日本人のように 25 日移動平均で判断すると既に抵抗となってしまっていると見て、戻り売りをして売りを仕掛けることを考えるケースとなり、フライングとなって〝ストップ狩り〟の憂き目に遭いかねない状況に自作自演的に陥いる可能性があるわけである。
ちなみに、「5 万円という心理的な節目」論に関しても、相場に対する影響力の強い外国人投資家が必ずしも円建てで N225 を見ているとも限らず、ドル建ての N225 で見ていると考えれば、どの程度の有効性を持っている節目論なのかと、理系目線的には疑問が残る点である。
註
- げんたろう氏の動画のサムネールが、ひげづら氏の動画のサムネールとそっくり(げんたろう氏の方がこのデザインのサムネールを使い出したのはずっと最近になってから)だと前々から思っているのだが、問題ないのだろうか? 見た目もそっくり(黒背景で 3 行構成、上下が白字、真ん中が赤字)の上、タイトル内容が煽り口調という点もそっくり。まさか裏方さんがお仲間同士ってわけでもないよね?
- げんたろう氏の発言内容自体はかなりマトモで、香港ファンド勤務の肩書通りのプロフェッショナルな語り口なのでよく視聴しているのだが、香港ファンド勤務と言っているのに「米国キャリア」と銘打っているのはどういうことなのか謎だったり、タイトル画面の AC の意味も謎(American Carrier とでも言いたいのか?)だったり、ひげづらチャンネルのサムネールデザインとの酷似など、YouTuber としてのチャンネルの演出面に多少ハッタリ臭が強い気がして、そこは気になる。まあ別にひげづらチャンネルの肩を持って味方をしたいとかいうわけじゃなくて、どちらのチャンネルも観てるわけだが、お勧めに上がるサムネールがパッと見で紛らわしいのはどうにかして欲しい。
- 他にも、ロウソク足ではなくボックスチャートにしていたり、TrueRange を使っていたり、VWAP を使っていたり、平均足を使っていたりと、色々と変態仕様になっているが、それらは主因ではないだろう
- そもそもテスタ氏は、このような発言の一方で、デイトレード(日中足)においては 3 分足を使って多数派が選択するであろう(1 分や 5 分の)足を外しており、その不整合をハニトラ梅木に茶化されている。
- 何より酷いと思っているのが、その大してアテになるわけでもない移動平均線同士を使った、ゴールデンクロス・デッドクロスを売買トリガーとして捉えようとする類の概念である。日本の株メディアは大好きみたいだけど、英語圏の情報ではほとんど取り上げられていない。移動線同士がクロスする・しない、という一点における事象の発生など、理系的に見てもどうでもいい(星占いのような)話であり、そうではなくてどちらの平均線が上行し続けるのか下行し続けるのか、というトレンドの確認に使うのが(天文学のような)適切な見方だと思う。ちなみに英語圏の情報で売買トリガーとして使われる定番は、レンジブレイクである。



