日本ファルコムの支配権の行方
支配株主である創業者の加藤正幸氏の 2024-12-15 の逝去により、公表(2024-12-17)以後、俄かに動意づいた日本ファルコム株(東証グロース 3723)だったが、そろそろ状況が固まってきたようなので、放っておいても四季報の情報に反映されるとは思うが、待ち切れずに自分で調べてまとめてみた。
- 2024-12-15
- 加藤正幸氏逝去。個人で 1150000 株(11.18%)、日本ファルコム HD を通じて 4160000 株(40.46%)を保有する他、子息 2 名(圭・翔)が合計 548400 株(9.67%)を保有し、創業家支配を磐石のものとしていた。
- 2025-01-17
- 創業家に次ぐ大株主である個人投資家の五味大輔氏が、正幸氏の訃報(2024-12-17)を受けて早速翌日(2024-12-18)から大量に買い増しを開始し、保有数が 5% を超えたことが、1 ヵ月後の大量保有報告書により明らかになった。
- 2025-09-19
- 創業家における相続内容が確定し、正幸氏個人の持株のほとんどが、子息 2 名(圭・翔)によって相続されたことが 、加藤翔氏の大量保有報告書により明らかとなった。
- 2025-11-20
- 五味大輔氏が 3Q 決算発表(2025-09-24)前後にわたってさらに大量の買い増しを行っていたことが変更報告書により明らかになった。
- 2025-12-03 17:00
- ファルコムによる自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による自己株式の取得告知がアナウンスされる
- 2025-12-04 11:00
- ファルコムによる自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による自己株式の取得結果が発表される
| 株主 | 属性 | 株数 | 比率 | 潜在的 群狼 | 安定株以外に おける比率 | 自己株式立会外買付の 売り手が創業家の場合 | 比率 | さらに自己株を 消却した場合 | 潜在的 群狼 | 安定株以外に おける比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 日本ファルコムHD | 創業家 (安定株) | 4160000 | 40.47% | 安定株:6303900 安定株以外:3976100 | 4160000 | 40.47% | 42.16% | 安定株:5891400 安定株以外:3976100 | ||
| 加藤 圭 | 1073900 | 10.45% | 1731400 | 16.84% | 17.55% | |||||
| 加藤 翔 | 1070000 | 10.41% | ||||||||
| 五味 大輔 | 個人投資家 | 620000 | 6.03% | 15.59% | 620000 | 6.03% | 6.28% | 15.59% | ||
| KOREA SECURITIES DEPOSITORY- SAMSUNG | 韓国の M&A ファンド? | 418400 | 4.07% | 9.35% | 10.52% | 418400 | 4.07% | 4.24% | 9.74% | 10.52% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505103 | アメリカの M&A ファンド? | 188300 | 1.83% | 4.74% | 188300 | 1.83% | 1.91% | 4.74% | ||
| NATIONAL FINANCIAL SERVICES LLC | アメリカの M&A ファンド? | 187200 | 1.82% | 4.71% | 187200 | 1.82% | 1.90% | 4.71% | ||
| NORTHERN TRUST CO. (AVFC) RE NON TREATY CLIENTS ACCOUNT (常任代理人 香港上海 銀行東京支店) | 香港の M&A ファンド? | 167650 | 1.63% | 4.22% | 167650 | 1.63% | 1.70% | 4.22% | ||
| 石川 三恵子 | 古参社員 | 150300 | 1.46% | 3.78% | 150300 | 1.46% | 1.52% | 3.78% | ||
| 浮動株 | 2244250 | 21.83% | 56.44% | 2244250 | 21.83% | 22.74% | 56.44% | |||
- 先日の自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)は、創業家の相続税捻出のためにファルコム経営陣が便宜を図ったもの、という噂がされている。註 1
- 自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)に応じた売り手が全て創業家だったとすると、創業家の保有比率は 61.32% → 57.31% に低下したことになる。
- 五味大輔氏の保有比率は 6.03% まで増加したものの、依然として創業家の比ではない。
- 外国の匿名の保有比率が計 9.35% あり、群狼の可能性はゼロではない。ファルコムはキャッシュを内部に貯め込む一方で、株主還元は弱いという体質の会社であり、経営陣は(創業家以外の)株主の意見を気にせずにのんびりマイペースに開発に取り組んでいる印象だが、ハゲタカファンドが狙いたがる経営体制だと言える。
- 五味大輔氏はアクティビスト側の立場で買い増しを続けているのだろうか? それとも、いつしかハゲタカファンドに揺さぶられるような事態が発生した場合に、創業家の側に味方するキングメーカーになるために保有しようとしている(創業家と五味氏の保有株を合わせるとほぼ 2/3 になる)一ファン投資家だというのだろうか?
註
- そもそも、15:30 にその日の取引が終了して、終値が確定しており、後出しジャンケンでその価格に対する買い付けを行うと 17:00 にアナウンスし、翌朝 8:45 に立会外で買付取引(ToSTNeT-3)が行われるやり方というのは、真珠湾攻撃のような不意打ち同然である。制度的には「公平性を担保する」という大義名分が掲げられているが、予め示し合わせた売り手以外の誰が取引に参加できるというのだろうか?註 2 註 3
- 最近では、東京海上も政策(持ち合い)株の解消が主目的の TOB をアナウンスしたが、価格が 10% もディスカウントされているだけでなく、取得期間は 2025-11-20~2025-12-18 と、ちゃんと余裕が設けられている。今回のファルコムのように、特定の株主のために前日に不意打ち的に決定発表して翌日に終わり、というものでは決してない。
- さすがに、東京海上のような超一流の会社では、ちゃんと株主から不平不満が出ないように 10% ディスカウント等の配慮がされているが、今回のファルコムに限らず、立会外買付取引(ToSTNeT-3)は制度上の「公平性を担保する」という大義名分を設けるに留まり、実際に東証側は「公平性が担保される」ようにしたいわけでもなく、むしろ今回のファルコムの件のような特定の大株主に便宜を計れるような抜け道を上場会社に用意するのが目的の制度のようである。cf.『ToSTNeT買付による自社株買いの実態』(関西大学商学部教授・太田浩司)太田教授によると「第一に, ToSTNeT買付は,その公表から執行までの時間が夜間を含む僅か16時間しかないので,多くの株主がその公表に気付かない可能性がある。第二に,たとえ公表に気付いたとしても,大株主の場合には売却金額が非常に大きくなるので,そのような重要な意思決定を限られた時間で行うことは不可能であると思われる。第三に,筆者が証券大手5社(野村證券,大和証券,三菱UFJモルガン・スタンレー証券,SMBC日興証券,みずほ証券)とネット証券大手7社(SBI 証券,楽天証券,松井証券,カブドットコム証券,マネックス証券,GMOクリック証券,岡三オンライン証券)の計12社に対して調査した所,全ての証券会社でインターネット経由で ToSTNeT買付への売却申込を行うことは不可能であった。従って,ネット取引が中心のリテール投資家がToSTNeT買付に応募することは困難であるといえる」ということで、証券会社の窓口で対面で申し込むくらいしか方法はないようだが、例えそこまでしようにも、17:00~翌08:45 などという時間は窓口営業が終わっているのが普通である。つまり、会社側と予め示し合わせて、証券会社に売るように指示しておいた特定の株主しか参加しようがないわけである。

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